(131) 万葉人のモミジ感を彷彿とさせる
岡山県・初和のイチョウ
岡山県北部の山間の初和地区に城徳寺という廃寺があり、そこにイチョウの巨木があると聞きました。初和地区は蒜山(ひるぜん)高原の一角にあり、秋になれば朝夕の冷え込みも厳しく、初和のイチョウの紅葉もさぞ見事であろうと期待されます。しかし実際に訪ねて見たら、初和のイチョウの紅葉は華麗と言うよりは、清楚な感じを与えるもので、万葉人のモミジ(黄葉)感覚もかくやと思わせるものでした。

    

  (131-1) 全山紅葉の里山

初和のイチョウを求めて国道を走っていたら、全山紅葉した山のふもとに黄色く色付いたイチョウと思われる大木が見えてきました。イチョウはその黄葉の色鮮やかさとボリュームの大きさから、遠く離れた所からでもそこにイチョウの木があることが分かります。
 
イチョウはカエデと並んで秋のモミジの双璧ですが、日本に伝来したのは意外に最近で、室町時代(15世紀前半)と言われています。奈良時代の万葉集にはモミジを詠んだ歌が沢山ありますが、万葉人はイチョウの素晴らし黄葉を知らなかったことになります。

  

 (131-2) 清楚なイチョウ巨木

 遠くから見たイチョウらしい大木、近付いて観るとそこには確かにイチョウの大木があり、根元に「初和のイチョウ」の標柱が立っていました。

 樹高:30m、幹周り:5.8m、推定樹齢400年、期待にたがわぬ立派なイチョウ巨木です。この地域では有数のイチョウ巨木として、真庭市の天然記念物に指定されています。

 イチョウの大木の下には普通の民家とあまり変わらぬ簡素な建物が一つあるだけで、廃寺跡のイメージとはかなり異なる所でしした。

 見上げるとイチョウ巨木の圧倒されるような華麗さ、と言うよりは清楚な感じを受けました。

   

 (131-3) 非常に小さいイチョウの葉

 イチョウの落葉が地面を黄色に染めていました。 はじめ気付かなかったのですが、よく見ているとこのイチョウの葉が非常に小さいことに気付き驚きました。普通のイチョウの葉と比べて大きさは1/2~1/3でしょう。

 このイチョウの木を最初に見たとき、巨木の割には迫力が小さく、清楚な感じをうけましたが、葉が小さいことがその一因であったかと得心しました。

 落ち葉の中には無数の銀杏(ぎんなん)も落ちていました。と言うことはこの初和のイチョウは雌木です。

  

  (131-4) 哀愁ただようイチョウの黄葉
 
民家の様な小さな簡素な建物、巨木ながら清楚な雰囲気のイチョウ、この廃寺は尼寺ではなかったのでしょうか? 小柄で上品な雰囲気の尼さんが、イチョウの黄葉が散り敷く庭にたたずむ姿を想像し、そこに華やかさより哀愁を感じるのは下種の勘繰りでしょうか?
 
万葉集ではモミジを詠んだ歌が非常に多いのですが、その多くはモミジを「黄葉」と表記し、悲しく哀れなものとして詠んでいます。万葉人にとっては生命力あふれる緑の葉こそ素晴らしい物であり、赤や黄色に色付いた葉は、木の葉が命を失った姿であり、悲しく哀れなものだったのです。
初和の廃寺に立つ黄葉のイチョウを見て、万葉人のモミジに対する気持ちが少しわかったように感じました。

  

   樹木写真の属性
 樹  種 イチョウ(銀杏)[イチョウ科イチョウ属

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 樹木の所在地  岡山県真庭市蒜山初和字上ヶ市268-1 城徳寺 
 撮影年月   2018年11月
 投稿者  木村 樹太郎  
 投稿者住所  島根県邑智郡川本町
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